日々思うことをつらつらと


by joe-suzuki

犬との生活<前篇>

この犬は賢い。大事にしないといけない。祖父はロンが聡明なことを、いち早く見抜いた。
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 僕が生まれた時、「ロン」はすでに家族の一員だった。ロンとは実家で飼っていた雑種の犬の名前である。家を建てた大工が、周りに家がないから無用心だと、プレゼントしてくれたのだ。横浜といっても、だいぶ昔の話である。住宅街の外れの家のすぐ隣は畑で、その向こうには雑木林が広がっていた。

どうして茶色の雑種がロンという名前になったか、理由は誰も覚えていない。母親が好きなアメリカのメロドラマの主人公だと記憶していたが、どうやら違うらしい。ともかく僕が生まれた時、すでにロンと呼ばれていたようだ。

ロンが聡明なことを、いち早く見抜いていたのは祖父だ。初孫だった僕の顔を見に来た際、「この犬は賢い犬だ。大事にしないといけない」と口にしたらしい。別にお手とかお座りとか芸ができる訳ではないが、今考えるとたしかに賢い犬だった。

当時はのどかな時代である。犬に鎖をつける必要もなくロンは芝生の庭を自由に行き来していた。そして、庭で遊ぶ僕に構ってくれていた。僕はいつも座ったロンの背中を撫ぜていたように思う。芝生の匂いと、ロンのつやつやした背中の感触を、今でもはっきり覚えている。間違っても噛まれることなどなかった。

最初はロンのための犬小屋は無かった。だから母は、一人で買い物に出かける際は、必ず勝手口のたたきにロンを戻していたという。ところがある日買い物から帰ると、ロンがたたきにいない。大きな声で名前を呼ぶと、応接間から頭を垂れて戻ってきたそうだ。そのすまなそうな姿。自分の犯した罪を分っていたのだ。それを見た母は、とても怒ることが出来なかったという。ロンは勝手口から静かに外に出ていった。

僕達親子とロンは、何度か一緒に買い物に出かけている。が、鎖もない犬だ。僕らが買い物の最中、いったいどうしていたのだろう。記憶がない。だいたい母は、買い物と僕と弟のことで手一杯である。放っておいても、ちゃんとスーパーの前で待っていたのではないだろうか。賢い犬である。たぶんそう思う。

  ある時、近所のお母さん方と連れ立って、徒歩40分ほどの市場に出かけたことがあった。ロンも一緒だ。結局その日は荷物が多くなりタクシーで帰ることに。いくら賢くてもやはり犬だ。ロンも母について一緒にダクシーに乗り込んできた。母は、その時強い口調でロンを追い出したことを今も悔やんでいる。まだ若くて気がまわらなかったと。

結局、ロンは何事もなかったように戻ってきた。犬には、人間よりも優れた能力があるのだろう。とはいえ、タクシーから追い出された時のロンの気持ちを思うと、母が後悔するのがよく分かる。

これが、僕の1,2歳の頃のロンの記憶の断片である。僕が生まれた時、間違いなくロンは家族の一員だった。






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by joe-suzuki | 2013-06-28 23:05 | 犬について